魔王の悲しき性
花火の向こう側で「ええ。」とつぶやく成瀬を見てしまった、その瞬間
ああ!!そうなんだ。
と切なくて切なくて。
胸が押しつぶされそうとはこういうことをいうのか。
ねじ曲げられた真実のせいで苦しみ、狂ってしまった人生。
自分が捨てるものは何もない。
そう思って11年かけて計画し、行動に移したその復讐。
弟や母親がどんな気持ちで死んだのか
それがどんなことなのかを、知らしめたかっただけだ。復讐という方法で。
でもここまできて、自分には母ならぬ姉や、弟ならぬ空ちゃんや、ましてや想像もしなか
った慈愛に満ちたしおりというマリア様までいてくれたことに気付いてしまう。
もうそれは嫌と言うほどに。
その大切な人たちに傷をつけてまで、続けなければならない復讐なのか?
かつて自分がされた仕打ちを、自分を愛してくれる人たちに自分の手でしてきてしまって
いたという事実。
自分の胸に刃がささるのは、直人への復讐が終わるときのはずだった。
でも、今自分の胸に刺さっている刃はこんなにも痛くて。
なんてあさはかだったのか。
そして魔王は自分の心にさらに刃を向ける決意をするんですね。
自分にとって大切な、その人たちを傷つけてしまってきたこと。
それに気付いてしまった自分がしなければならないことは・・・
魔王にならなければならない。
自分に罰をくださなければならない。
これで最後です。
そう決めて来たんです。
成瀬の言葉に嘘はなかった。そう静かに自分に言ったのだから。
帰り道、歩きながら魔王に変わっていくその姿は
それはそれは悲しい決意を秘めていて。
美しく命儚い蝶のように、私には見えました。
どうか。どうか!
赤い部屋に最後に成瀬の写真がありませんように。